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電子立国と、ハードウェア設計者の私

電子立国「第05回 8ミリ角のコンピューター」(01 of 02) ‐ ニコニコ動画:GINZA

久々に休日に休んでいるので、有名なNHKドキュメンタリー "電子立国 日本の自叙伝"(1991年放送)を見ていた。

文系のNHKスタッフがものすごく勉強して番組を作っているのが分かるし、実験の再現なども行い産業史の資料として貴重っぽい感じだ。

"第5回 8ミリ角のコンピューター"では、IntelのCPUの元となる4004の開発者、嶋&ファジンのインタビューを長尺で見れる。



ところで、私はハードウェア系の研究室にいる修士の学生なのである。(ハードウェアというのはここでは狭義の意味で、デジタル回路設計のことである。はんだごては使わず、論理設計が主な仕事だ) が、ハードウェアを研究するモチベーションがどうも弱い。いくつかある要因のうちの1つが、ハードウェア(回路設計)界のスターを知らないことだ。ソフトウェア界のスターならば無数に挙げられるのに。

それがぼくには楽しかったから (小プロ・ブックス)

それがぼくには楽しかったから (小プロ・ブックス)

私はこの、Linusの自伝本を立ち読みしたことが、コンピュータの世界に進むきっかけだった。それまで私はVisual Basicで簡単なプログラムを書いたくらいの経験しかなかったけれど、LinusのはじめてのOSがコンソールになにか返してくる瞬間の喜びの描写なんかはとても共感できた。それから、OSSの教祖とか、カーネルハッカーとかは神だと思いはじめた。

そういうのが初期衝動であったので、現在ハードウェアの世界に転身してからというもの、魅力はどこにあるのか、スターはどんな人々なのかというのが見えず、不安であった。

ドキュメンタリー動画に話を戻す。プロセッサ設計にとってはまさに嶋さんやファジン氏がスターなのだ。そして彼らが回路設計で身を削った苦労というのは、私がやっていることとさほど変わらないものだった。設計したものが実際うまく行くのか?リセットシグナルを送るまで分からない。信号を確認できた瞬間というのはやっぱり共感できるものである。その後、Intelが大きくなって、みんながこぞってx86バイナリを作ってみたり読んでみたりしてるわけで、ソフトウェアと地続きになっていくわけだ。

ところで、ソフトウェアから入った人間として、苦労した&気づいたこともある。当時の回路設計者というのは紙に設計して、論理設計から波形の確認まで数ヶ月もかかっていた。私たち、現代の回路設計者は、論理を組んでからシミュレーターで見るまで一瞬で行える。それでも私は慣れなくて大変だった。ソフトウェアの場合は結果を出すまでが超効率化されていて、むしろテストを書いてから実コードを書き、コードの上書き保存と同時にテスト結果が出るほどだ。ハードウェア業界はエンジニア人口が少ない上に、特許とか知的財産で商売してるので、そういう作業効率化のノウハウがほとんど共有されていないことに気づいた。

逆に回路側の視点も持てた。オープンソースハードウェアとか言葉は流行ってるけれども、Arduinoとかも実際の使われ方はマイコン時代と変わらない。ハードウェア記述言語をOSS界隈の人々がホビーとして書くようなレベルには浸透してないらしい。作ったものを見せるだけではなくて、たくさんの人の手で、ひとつのコードをレビューしたり改良していくような文化が無ければ、上述のような作業の効率化の登場は無いだろう。なんか出来ないかなぁ、などと考えているんだけど、このへんの横断が出来たらもう少し楽しくなってきそうだ(future work)

とりあえず、コンピュータというのは、歴史を知ると楽しく思える部分が多い。情報系の学生は産業史を見てみると役に立つかもしれないので、おすすめだ。